Pic_0021 今回のゲストは池田正典さんです。池田さんは12月に入り、Flower recordsよりWilliama PittCity lightsのカバー曲をリリースしています。

この曲はバレアリッククラシックとして有名な曲ですが、そのバレアリックの日本での第1人者として、来年2月にはいよいよNew Balearic Houseと銘打たれたミックスCDを発売予定です。池田さんが考えるバレアリックとはどういうものかということをお伝えできればと思います。また、レコードというメディアにかける想いがヒシヒシと伝わってくるインタビューでした。

・池田さんの現在までの活動について教えてください。

元々、僕はロンドンでDJをはじめたんですが、たまたま観光っぽくロンドンに行っただけなんです。ロンドンに渡るまではDJはしていませんでした。行ったときに感じたのは日本とロンドンでは電圧の違いがあって、どんなしょぼいシステムでもファットで、いい音に聴こえる、イギリスって不思議な国だなあと。ラジカセでもいい音に聴こえました。(笑)

最初からDJをやりたくてロンドンに行ったわけではなく、なりゆきではじめたんですが、いろいろなところからオファーが来るようになって、とうとうNME(イギリスで出版されている音楽雑誌)のブリティッシュアワードとかでもDJをしていました。かなり業界の第1線に行ってました。(笑)不思議にDJで生活できていた、なぜそのような環境に身を置くことができたかは謎です。(笑)ただ運の良い事に周りに自分をサポートしてくれた素晴しい仲間達がいたからだと思います。

DJをする上でもだれもやっていないような選曲をしていました。今でこそトランスやらプログレッシブハウスと言われるようなジャンルの音楽をプレイしていますが、当時はレアグルーブをとことん追求して、それに出始めの頃のブレイクビーツをブレンドしたりしていました。James Brown808Stateが当時は好きでしたが、当時から変らないことは、「音楽は目で買わないで、耳で買う」ということ。自分の感性にフィットする音楽を求め続けているので、ハウスにこだわらずいろいろ掘ってますよ。

イギリスに7年いて、東京に戻ってきた理由は”DJだとビザが下りないから”(爆笑)

最終的にはDJだとワーキングビザが下りても三ヶ月単位の更新になってしまい、それをやっていると時間ばかりとられて、全然仕事にならない。もったいないとか、悔しいとかの気持ちがあったけど、東京に戻ってくることにしました。

・いろいろなリミックスを手がけていますが、製作する上で心がけていることはどんなことですか?

Pic_0025 東京に戻ってきたのは98年頃。戻ってきてからはりミキサーとしての仕事を依頼されるようになりました。不思議なのは、自分からこういうことができますというアプローチをしたわけではなく、なんとなく始まったんですよね。これはロンドン時代からの人脈のおかげでした。自分が手がけた楽曲の中で今、一番好きなミックスはLittle big beeSolitudeです。

ルパン3世のサントラや深田恭子などの楽曲も手がけましたが、他のアーティストの曲をリミックスする上では、原曲を残しつつ、自分の色を出せるかということを常に念頭に入れています。原曲を一度聴いて、何かしら自分が印象に残った部分を抽出してリミックスはします。もちろん曲によってパーツは違います。あるときはボーカルであったり、あるときはベースだったり。

ある種アレンジャーとして参加している様な部分も気持ち的にあります。

オリジナル曲は断片から膨らませていくことが多いですが、曲によってさまざまです。元々はバンドでベースをやっていたこともあるんですが、今の環境ではまったく役に立っていませんね。(笑)

・今回リリースする作品についてお聞かせください。まず、シングルCity Lightsについて。これはWilliam Pittのカバー曲ですが、どうしてこの曲をチョイスしたのでしょうか?

井出靖さんのサウンドギャラリーのコンピレーションの中でカバー曲集をやることになり、New waveのダウンテンポの曲でイビザっぽいものをカバーして欲しいという依頼があったんですが、その依頼があったときに、この曲しかないと思いました。そのカバー曲の完成度が高く、もったいないので、新たにリミックスを加えたものをリリースすることにしました。このタイミングじゃないとやらなかったかもしれません。

機会を作ってくれた井出さんには感謝しています。

・ミックスCDについて。これはバレアリックというタイトルが入っていますが、池田さんにとってのバレアリックとはなんでしょうか?

Pic_0027 いろいろな人からここ数年の自分のプレイがバレアリックなDJプレイと良く言われていたのですが、自分にとって、昔はバリアリックというと90年代初頭の大箱ハウスというイメージがありました。ところが、そういうイメージとはちょっと違う。いろいろと探って行くと、”琴線に触れるハウス”をどうもバレアリックというらしいということがわかりました。今回はそんな”琴線に触れる”フィーリングを大切にした曲を選んでいます。

バレアリックは自由な発想が根底あり、僕自身はジャンルレスだと思っています。今回収録した楽曲もジャンルに縛られない、自由な曲をNew Balearic Houseとしてリリースしました。

一般的にはプログレッシブやトランスと呼ばれるジャンルのものから選曲していますが、音楽は頭ではなく耳や体で聞いて欲しいと思っています。このジャンルだからダメとかということになってしまうと視野が狭くなってしまいますから。感覚的にはトランスではなく、トランシーな音楽ですね。ここで意味している音楽は。

トランスのDJがプレイしているレコードとはちょっと違う風にレコードをプレイしていると思います。僕の場合はHouseっぽいグルーブがあるか?つまり腰にくるグルーブがあるか?という観点でアプローチしています。

クラブでDJをする場合、一晩一晩雰囲気は違いますが、選曲が肝だと思っているので、常に2曲目先までは意識しています。ロンドンにいるときはヒップホップのDJがやるようなカットアップなスタイル、ぶっこみタイプ(笑)でしたが、現在はつなぎと流れを重視しているので、レコードを購入したら、聴く時間を一番大切にしています。これが一番大切な仕込みですね。DJをやる上での基本は”腰にくるグルーブの曲を選ぶ”ということに尽きるのですが、トランスのレコードはBPMが早いので、BPMを遅くして、腰で聴く音楽にしています。

一番好きな音楽は白人がやる黒人音楽だと思う。形態的にAverage White Bandみたいに、ドラムを除くメンバーが白人とか。そんな、「黒いけど黒くなりすぎない音楽」が好きということが最近分かった。トランスやプログレシッブもその目線で考えると、理解しやすい。

今回リリースするミックスCDはバレアリックというタイトルがついていますが、今後ずっとバレアリックをやるかというと、そうでもない。ただ現在進行形の音楽をリアルタイムで評価する姿勢を大切にしていきたいそれだけかな。

2000年以降、ハウスのテンポにいろいろな音楽が近づいてきている印象を持っています。レゲエのブランニューにしてもそうです。BPMがどんどん早くなってきている。言葉で分類することはわかりやすいですが、バレアリックというのはそのような音楽ではない。僕の中では面白ければ、全部バレアリックでいいのでは?と思っています。

・最近のレコードを取り巻く環境についてどのように考えていらっしゃいますか?

Pic_0028 我々の時代の娯楽というと、音楽、テレビ、本で、どれにのめりこむかという感じだったけど、今の若者は選択肢が沢山あって、以前に比べて音楽がそれほど重要じゃないというのは確か。どこにいても、耳から音楽が入ってくる。手軽です。我々の時代はレコードを購入することにもとても苦労して、通販などで、どんなレコードが届くのかな?って心待ちにした記憶があります。こういう気持ちが、音楽に対しての情熱を増幅させていたと思います。

ところが、最近は携帯電話でもダウンロードで音源を購入することができる時代です。僕の周りには音楽が好きな人が多いので、自分の音楽の対して情熱とさほど違いないような気がしますが、世間の一般的なリスナーも音楽に対しての目線は一緒だと思いたいという気持ちがあります。音楽を大切にして欲しい。

渋谷のレコード屋がどんどんなくなってきています。なくなっていくのはとてもさびしい。でも僕はレコードを買い続けます。それは、レコードじゃないと、”腰に来ない”場合が自分にとって多いんです。ダンスミュージックのレコードはゼッタイになくならない。それは発信者のディスコ観が崩れるということが考えられないから。もし、このディスコ観がなくなってしまったら、レコードに対してのこだわりがなくなってしまうと思うけど。それは考えられない。今回のMIXCDもすべてレコードを良い状態で録音した物です。

だからといって、配信というのは一概に悪いとはいえないしデータのグルーブの面白さもある。目の前にあるものを聴いて、自分の感性に響くものを選び、人の意見に左右されず購入することができれば、自分の感性が磨かれるはずだし、そういう人がいて欲しい。音楽は娯楽ではない、スペシャルなものではなくなったかもしれないけど、ダウンロードがきっかけで、音楽に興味を持った人が、どんどん音楽を追求するようになったとき、アナログの音質の高さを実感してもらうことができる環境を僕たちは残していかなければならない。

今、リキット・ロフトで仲間達とやっている東京バレアリックというパーティーもレコードの音の良さが伝わる様にと、願って始めたパーティーで毎月1トンもの機材を自分たちで搬入するもの苦にならない(笑)伝わっていけばそれだけでいいかなと。