2008年のFUJI ROCK FESTIVAL出演以来、日本での知名度が急激にあがったというThe New Master Sounds(ニュー・マスターサウンズ)。DJケブ・ダージに現世で間違いなく最高のファンクバンドと称された彼らのライブパフォーマンスは折り紙つきだ。インタビュー前日にはclub asiaで開催された<in business>にライブ終了後ゲスト出演、ステージでオーサカ=モノレールと“Tighten up”を披露し、集まったファンを狂喜させた。
彼らのサウンドを聴いていて感じることは、質感がざらっとしていて、生々しいことだ。小奇麗にまとまった感じではなく、飛び出す音は強靭なファンクの塊。この秘密を今回は探ります。
・世界各地でツアーをやっていますが、アルバム発売後のツアーということもあり、今までと何か違った印象などはありますか?
Simon:アルバムから多くの曲が演奏できるので楽しいし、お客さんもCDをよく聴いているのか、反応も良くて満足しているよ。沢山のお客さんが来てくれるのがうれしいね。
Eddie:ツアーをやっている中で曲をブラッシュアップしている感じで、日に日によくなっているのもいいことだと思うよ。
・日本の印象はどうでしょうか?
Simon & Eddie:明日帰るからさびしいねえ。
Eddie:ようやく時差ボケも治ったんだけどなー(笑)1週間くらい滞在できれば、もっと楽しめたかも知れないね。
Simon:今回のツアーはSmash(プロモーター)の仕切りが良くて、すべてに満足しているよ。
Eddie:時間があったらスキーとかしてみたかったな。
Simon:僕は京都に行ってゆっくりしたかったな。今回のツアーで大阪も行ったので、途中京都通ったんだけどね。昔一度ライブで京都に行ったことがあるんだけど、ライブが終わったのが夜中だったから、周りが真っ暗で何も見えなかったんだよね。いつかはゆっくりと巡ってみたいね。
・録音技術が発達した結果、生々しい音楽が失われている感じがするのですが、The New Master Soundsのサウンドについてはそのような印象はなく、どのように録音しているかということが気になったんですが。
Simon: Eddieがパソコン使って一人で作ってんだよ
Eddie:そうそう!
(一同爆笑)
Simon:ホントは、僕らの住んでいるリーズに古いスタジオがあって、そこで録音しているんだけど、そのスタジオでは、メンバー全員がスタジオに一緒に入って一発録りなんだ。お互いの顔が見えるくらいの高さのパーテーションで仕切られていて、お互いの様子を見ながら演奏する。録音はパソコンではなくて、テープにしているんだよ。
Eddie:ライブのフィーリングを大切にしていて、1時間くらい練習して録音するようにしている。そうしないと音がフラットになって、面白くなくなっちゃうんだ。2、3テイク録音してダメだったら、こだわらず次の曲を演奏することにしている。
Siomon:大切なことはリズムを一定に保つようなクイックトラックは使わないようにしてるよ。演奏していて、興奮してきてリズムが揺れたりするのはそのまま表現することで、バンドとしての一体感が生まれ、生々しい音楽になると思うんだ。
Eddie:収録終わったものはパソコンに取り込んで、僕が自宅でミックスダウンして、でき上がったものをスタジオでレビューするんだけど、これが一番効率的作業ができるね。
(ここで、Eddieがセットリストを考えるために退席)
・この録音技術の進歩は音楽にとって非常に大きな問題で、ある程度の作品はどうにかなるというと思うんですが、『Live in San Francisco』(ライブ盤)は手の込んだ編集をしているという印象がなく説得力があります。
Simon:サンフランシスコという街は特別な街で、そこで暮らす人たちの音楽に対する想いとかが大きいと思うんだ。演奏もオーディエンスによって変わってくるから、ライブ盤を出すにあたって、あえてサンフランシスコを選んだというのもある。
アメリカでのライブアルバムのニーズというのは実は、それほどないんだけれども、日本ではライブ盤も売れる。僕たちが関わっているマーケットの中ではCDセールスについては日本が一番大きいと思うよ。
今回のツアー、特に東京でのライブは最高の演奏ができていると思っているんだ。それは東京のオーディエンスはライブ中に飲み物を買いに行ったり、お喋りしたりしている人っていないし、音楽に集中しているのがわかる。
音楽に集中しているエネルギーを凝縮したような東京でのライブレコーディングもしてみたいな。あえて東京らしいとか、エキゾチックなとか、そういうものではなく、純粋に良い演奏を聴いてもらうというところでアルバムを作ったら、アメリカでリリースしてみたいし、反応を見てみたい。
・70年代には沢山のファンクバンドがいて、どのバンドも演奏力がありましたが、現在のファンクバンドではあなた方のような編成で、これほどまで厚みのある演奏ができるバンドは聞いたことがない。これは何が違うんでしょうか?躍動感が全然違います。
答えになっていないかもしれないけど、今ではいろんな音楽が沢山あって、昔のように一つのジャンルにバンドが集中するようなことがなくなったんだと思う。昔はファンクがメジャーだったから、多くのバンドはファンクを演奏したけど、今ではそういうことがなくなったんだと思うよ。いろんな音楽があるからね。
僕はイーグルスやピンク・フロイドなどのロックも好きだけど、70年代のファンクやロックには共通する何か特別な雰囲気みたいなものがあったような気がする。ところが80年代に入ると、録音技術や機材が発展したおかげで、音楽そのものがつまらなくなってしまったような気がするし、音楽にもいろいろなものが登場してきたよね。こんな状況で、ファンクバンドも僕たちを含めていろいろあるけれど、一時代を築くような名声を得られるということがイメージできないから、バンドをやるというモチベーションが低くなってしまっているんじゃないかな。
・音楽産業は大きな転換点を迎えています。今までと違った音楽の楽しみ方が出てくる中で、CDやレコードなどのパッケージ商品はどのようになると思いますか?また、そのような時代の中であなたはどのようなことを今考えられていますか?
Simon:僕らは元々CDのセールスに頼っていたわけではなく、ライブ中心に収益を上げてきた。これは古いやり方なのかもしれないけど、今になって考えてみると、これが一番正しいやり方だったのではないかと思ってるよ。
日本は特別で、元々CDが売れていて、リスナーにとってCDはアーティストと自分をつなぐものというイメージがあるようだし、所有するということにこだわる人種なのかなって気がする。アメリカのような大きな国で自分たちのCDを販売しようとすると、流通に乗せることも大変で、大都市以外の小さな町でCDを販売するということはとても難しいことなんだ。
ところがiTunesが登場以来、僕らの音楽はいろんな人に聴いてもらう機会が増えた。アメリカではツアーで小さな町とかにも行くんだけど、ライブが終わって、リスナーが家に帰ると、そこでiTunesを使ってアルバムを購入できるってことだよね。これってすごいことだよね。
ここにきてiTunesの売上もどんどん上がってきていているんだ。僕はバンドの他にレーベル運営をしているけれども、このiTunesのおかげで大きな収益を上げることができるようになっていて、自分たちのような小さなバンドが大きなアメリカのマーケットで知ってもらうためには、デジタル配信というのはとてもありがたい仕組みだよ。
しかし、困った問題なのは、ファイルシェアリングのような形で、全世界に広がってしまうことなんだ。実は新しいアルバムの『Ten years on』は日本でしかリリースしていないんだよね。リスナーが、いい音楽だからシェアしたいという気持ちはわかるんだけど、日本以外でCDがリリースされていないので、このようなことになると、他の国でリリースすることができなくなってしまうかもしれない。
・でも、ライブの動員は増えているのではないでしょうか?
Simon:うん。増えたね。アメリカの大都市では600人位のクラブでもソールドアウトにできるようになってきたけど、まだすべての都市でそんな感じではないんだよね。
ただiTunesをきっかけにライブに足を運んでくれるお客さんが増えて、初めて僕たちの演奏をライブで聴いたお客さんがiTunesで僕たちの音楽を買ってくれたりすることで、どんどんライブの動員が増えている感じだけど、日本ではCDの売上が高いので、これからどうなるか気になるところではあるんだ。
・ダウンロードの音質って気になりませんか?
Simon:アメリカでは、iTunesで僕たちの曲を聴いている人がほとんどだけれども、その多くのリスナーはライブ会場でCDを購入してくれるんだよね。僕たちの音楽に興味があるファンは、本当はどういう音がするか?ということが気になる人が多いんじゃないかな。
Message from The New Master Sounds
時間がなくて聞けなかったんだけど、僕は彼らに「アメリカって最近Funkしてないんじゃないか」ってことが聞きたかった。次回はそのあたりも話を聞いてみたい。
印象に残ったのは、録音はテープにしているということ。しかも演奏は一発録音。これだ、彼らのサウンドの生々しさのカギはここにある。
インタビュー終了後、ライブをみた。常にツアーで世界各地を回る彼らのパフォーマンスには、その実績と自信が音になって表れている、そんな印象を持った。
途中休憩をはさんで3時間半のライブを立ったままで見るというのは、オジサンの僕にとっては厳しいけど、音楽に飢えている若いオーディエンスは忘れられない夜になったんじゃないかな。そいえば、「神がかっている!」と興奮して、踊り狂っている若者がいたんだけど、なんかとってもほほえましかった。音楽が目の前で呼吸している瞬間だったような気がする。
2008年来日した時にライブの模様はこちら。みんな若い!
The New Master Sounds6枚目のアルバム「Ten Years On」絶賛発売中!